鶴瓶の「家族に乾杯」をつけたら、大石田でのぶっつけ本番の旅だった。季節はちょうど新そばの季節。ゲストの俳優・高橋克実は、うまいそばが食べたくて大石田を旅先に選んだと言う。そこで、地元の人たちにうまいそば屋を教えてもらおうと町の中を歩き回るのだが、聞く人聞く人「どのそば屋もうまいからなあ。それぞれに味がある」と言うばかりで、おすすめの店を教えてくれない。『そば街道マップ』には、狭い町に十数軒ものそば屋が名を連ねているというのに。腹もすいて困り果てた高橋は、JR大石田駅のそば屋に最後の望みをかけるのだが、たどり着いてみれば、すでに閉店。結局、そばを食べたくて歩き回ったあげくに、食べそこなった旅の話となった。思わず笑ってしまったが、それにしても大石田の人の律儀さ、口の固さにはたまげた。
そんな大石田から支部総会の案内が届いた。しかも、大石田名代の手打ちそば屋で。これはもう行くしかあるまい。
奥羽本線を北上して一時間あまり。夕闇がしだいに濃さを増してくる。名代の手打ちそば屋は、鉛色した最上川のほとりにあった。宴もたけなわ、参加者の自己紹介が始まった。
「『家族に乾杯』で紹介された高橋克実とそっくりの上司の元で働いてます」
「今日は、今年初めての雪降ろしをしてきました」
「東京で同窓会をするとたくさんの人が集まってうれしいけれど、それはそれで悲しいことなわけで。話してみるとみんな田舎に帰りたいと言うけれど、働き口のことを考えると難しいわけで。でも、自分はあまり考えずにUターンしてきてしまいました」
「久しぶりに山東に体操をする生徒が入って、インターハイに出場しました。うれしくて一生懸命に応援してます」
「東京で見ず知らずの人に『テレビで見ました』と声かけられて、いやあまいった」
「退職して地元に帰って今の職につきましたが、最初の頃は、競走社会で生きてきた今までと、まるで違うものの考え方に戸惑いました」
「一年前にここで婚活中という話をしたけれど、何事もありませんでした。今年こそどうぞよろしくお願いします」
老いも若きも自分をさらけ出し、笑いが絶えず和気あいあいとした雰囲気に、時間のたつのも忘れてしまいました。今の時代は、若い人から集まりに参加してもらうのが難しい、悩みの種だという話をよく聞くけれど、――おいしいそばとお酒と楽しいおしゃべりと――そこにはたしかに、世代を越えて繋がる場がありました。
気づけば、帰りの新幹線の発車時刻はもう間近。それでも、そばだけはしっかり味わってかき込んで、賑やかに見送られながら会場を後にしました。大石田名代のそばは聞きしに勝るおいしさでした。が、大石田の人たちは予想を大きく裏切り、きわめて饒舌でした。
翌日からは、音もなく降りしきる雪。大石田のそばは箸でかまさずに、鍋底から湧いてきて茹で上がるのをじっと待つのがコツだとか。湧き上がるそばのうねりのように、今頃は最上川も吹雪いているのでしょうか。